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image: flickr / Chris Zielecki
アイスランド南部に浮かぶウェストマン諸島。その中のひとつにエリデイ島(Elliðaey Island)があります。島全体的が牧草地で覆われ、その北端に屏風のようにそそり立つ崖の麓に、一軒だけ家のようなものが建っています。
この島はもともとは火山の一部だったと言われています。ひどく欠けてしまった杯の残骸が、そのまま海の上に投げ出してあるような、特異な地形がまず見る者の目を引きます。この地形のみで既に異世界に存在する島のように思えてきます。そこにさらに謎めいた家が建っているのですから、想像力がいやが上にも刺激されます。
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image: flickr / Chris Zielecki
300年ほど前、この島には5世帯が住み、漁業や牧畜、海鳥の狩猟などをして生計を立てていました。しかしその後200年が経つ間に、生活の維持が困難になって行ったために住民が島を離れはじめ、1930年には無人島と化してしまいました。
もっとも、後になって気づいたのですが、こと海鳥の狩猟となるとこの島は非常に恵まれた環境にありました。そこで1953年、旧島民で構成するエリデイ狩猟協会の手によって島に猟小屋が建てられました。ここを拠点に、その時だけ島に戻って再び海鳥を狩ろうというのです。私たちが写真で見て「家」だと思っている建物は、実はこの猟小屋なのです。

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image: flickr / Chris Zielecki
さてアイスランドには、この他にもうひとつ エリデイの名を持つ島があります。こちらはアイスランドの西部、スティッキスホールムル(Stykkishólmur)という町の沖合いに横たわっています。航空写真で見ると、こちらにも何か小屋らしきものがほんの数軒といった様子で建っています。火口がそのまま水没したような形状で、ウェストマン諸島のエリデイ島に負けず劣らず、なかなか幻想的な雰囲気を持った島です。
西暦2000年、時のアイスランド首相オドソンが、歌手ビョークが祖国に対してなしてきた貢献を顕彰するために、"Ellidaey"島の使用権を譲渡しようと提案したことがありました。直ちに国民の大反対に合いこの提案は取り下げられましたが、その時にオドソンが言っていたのがこちらのエリデイ島だとされています。というのも、ソースによっては、オドソンの発言の中に「西岸沖にある」島という文言があるからです。もしウェストマン諸島のエリデイであったら、南岸と言うはずです。
この混乱のせいで、先に述べた猟小屋はビョークの所有する別荘だとまことしやかに噂されたこともあります。

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アイスランド西部のエリデイ島 (image: discusionez)


A: ウェストマン諸島のエリデイ島
B: アイスランド西部のエリデイ島
C: オオウミガラスのエリデイ島

そして3つ目。この島は"Eldey"と綴りますが、どうも私には、ElliðaeyまたはEllidaeyと同系統の名前であるように思われるのです。"ð"は英語のthyやthisのthと同じ、いわゆる発音記号に登場するðですので、表記の揺れとしてはEllidaeyもあるでしょう。そうなるとEldeyまではあと一歩。となるかどうか、ここはそのように想像しておきます。"ey"はアイスランド語で「島」を指すそうなので、Ellidの部分ですね。
前置きが長くなりましたが、この第三のエリデイは島というよりは岩と言った方が正確です。首都レイキャビクがあるレイキャネス半島の突端から16kmの沖合いに浮いています。1844年、この島で地球上最後のオオウミガラスが命を奪われたと言われています。
オオウミガラスというのは海鳥の一種で、体長80cm、体重5kgと非常に大型になる種でした。学名はPinguinus impennis。ピンギヌス。これを聞いて何かを連想しませんか。そう、ペンギンです。
実はこの鳥、外見や動作もペンギンに似ており、というよりも、元来はこの鳥こそがペンギンだったのです。今のペンギンは、本来のペンギンに似ているので、便宜的に「ペンギン」の名称で呼ばれていたのですが、本家本元が絶滅してしまったためにそのままペンギンの名を受け継いだというわけです。
羽毛や脂肪を取るためにひたすら人間に狩られ続け、数百万羽を誇った個体数からついに絶滅へと至った元祖ペンギン、オオウミガラス。今回一枚の写真から興味を持ちエリデイ島について探るうちに、たまたま見かけたオオウミガラスという鳥。その終焉の地がやはりエリデイという名の島であったことを知り、因縁とまではいいませんが、偶然の不思議な力を感じました。

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オオウミガラスのエリデイ島 (image: wikimedia)

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オオウミガラス (image: wikimedia)
現在ウェストマン諸島のエリデイ島で狩られているのは、パフィンと呼ばれるツノメドリの仲間です。非常に愛らしい容姿をしています。草原にたくさんの巣を構えるそうですが、このように道化師めいた鳥があのように箱庭めいた島に暮らしているかと思うと、その幻想的な「異世界力」でもってオオウミガラスも復活しないものかと、ひそかに期待してしまいます。きっと昔はこちらのエリデイ島にもオオウミガラスがいたに違いありませんから。
ツノメドリが絶滅しないように気をつけるというのが本筋かもしれませんね。しかしそれでは夢の介在する余地があまりにも少ないように感じるので、あえてオオウミガラスを持ち出してみたいのです。

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ツノメドリ (image: flickr / Tony Armstrong)

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wikipedia: オオウミガラス
wikipedia: Eldey
via: spotcoolstuff
via: when on earth
via: amusing planet
via: neatorama
via: Heimaslod(アイスランド語)
via: playing in the world game